国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

バブリーなアジア(1) ─動産社会から不動産社会へ─

異文化を学ぶ


モンゴルはいま、空前の不動産バブルを迎えている。社会主義時代、土地や建物はすべて公有であったし、それ以前には一部の地域を除いて、遊牧民の利用する牧地は共有地であり、また富の基盤は家畜すなわち生きた動産だった。すなわち、不動産の価値によって生活が左右されるという歴史的経験は、そもそもなかったのである。だから、本当に空前絶後の事態を迎えている。

首都ウランバートルのアパート価格はこの数年間で2~3倍に高騰した。現在は1平方㍍1200㌦を下回らないといわれている。平均的サイズは55平方㍍ぐらいなので、約7万㌦にもなる。国際機関に勤めて高給800㌦をもらっていたとしても、購入すれば7年余りに相当する。もはや庶民にはとても手の出ない物件となってしまった。

これまで人びとはあたかもウシやウマを売買するかのように、物件を一目見て他と比較することもなく、即決で商談を成立させたり、気軽に転売して頻繁に引っ越しをしたりしていた。現代的な消費行動にも、伝統的文化の痕跡を読み取ることができるような気がしたものだった。

これからはそう簡単に所有権を移すこともなくなるかもしれない。実態を超えた見せかけの繁栄によって、格差はますます固定化しそうに見える。

国立民族学博物館 小長谷有紀
毎日新聞夕刊(2008年6月4日)に掲載