国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

バブリーなアジア(8) ─インドのITバブル─

異文化を学ぶ


最近のインドの経済発展はめざましく、とくに都市部の人びとの生活は大きく変化している。不動産バブルもここ10年来続いており、いつかははじけるといわれ続けながら、いまだに右肩上がりが続いている。その一方で、地方都市や農村の生活はあまり変わっておらず、格差はますます拡大している。

インドの発展を支えた大きな要因は、地域の壁を超えたインターネットの普及である。世界中の企業のお客様窓口が実はインドにおかれていることはよく知られているが、このいわゆる「コールセンター・ビジネス」に従事する労働者は50万人を超えるといわれている。またネットを通じてアメリカの子供の家庭教師をやるビジネスもあるようだ。

さらに、世界のソフトウェア産業を支えているのもインド人またはインド系の人びとであり、IT産業に働くインドの若者は国内でも欧米先進国並みの給料をとっている。こうした若者には、親の世代が何十年かけて営々とつみあげてきた給与水準をはるかに超える収入がある。

南インドのマドラス(チェンナイ)でも、郊外にIT企業が立ち並ぶエリアがあり、その周辺には高級マンションが林立している。オーナーの多くは帰国した海外在住インド人であるが、欧米諸国はいまだに差別感情が強くて住みにくいからなのだという。

国立民族学博物館 杉本良男
毎日新聞夕刊(2008年7月23日)に掲載