国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

陸を越え海を渡ったモノ(3) ─アフリカへ渡った緑茶─

異文化を学ぶ


茶を運ぶために東西をつなぐ「茶馬古道」という交易路がある。古来、中国から中央アジアまで陸路で緑茶が運ばれた。一説では、緑茶はコーカサス地方を経て北アフリカへ伝播(でんぱ)した。アラビア商人は交易を通じて9世紀以来茶を知っていたというから、古くから緑茶が西域に広まっていたとしても不思議ではない。一方、1854年クリミア戦争で足止めを食った英国船がモロッコで荷を降ろしたとの説もある。

世界の茶生産の3分の2以上は紅茶である。緑茶のおもな消費地はアジアとアフリカである。遠いアフリカ大陸で緑茶が喫されているのは、諸説はあれ、その伝播の歴史にロマンを感じる。

もっとも、アフリカでは独特な飲み方をする。中国産の硬く丸まった玉緑茶をミントと一緒に煮出して、砂糖を加えて飲む。サハラ砂漠の南のセネガルでは、渋くなるまで茶を煮出す。南下するほど茶の味も砂糖も濃くなっているようだ。

お茶には作法がある。アフリカでは高いところからガラスの容器に茶を注ぐ。器に泡がたつのがよい。セネガルでは茶は3回淹(い)れる。食後のひと時は、延々と続くおしゃべりと3杯の甘いお茶である。

茶は乾燥地帯のビタミン補給に欠かせなかったという。サハラ砂漠を渡った商人たちも茶を携えていたにちがいない。

国立民族学博物館 三島禎子
毎日新聞夕刊(2008年8月20日)に掲載