国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

創世神話(7) ─砂漠の中の川床の謎─

異文化を学ぶ


アフリカ南部には、日本のおよそ2倍の面積を持つカラハリ砂漠が広がっている。ここは、地平線まで灌木(かんぼく)と草でおおわれた平坦な土地であるが、深さ2㍍余りで幅40㍍以上もある、降雨があっても水の流れない川床に出合うことがある。これは、100㌔以上も東西に延びていて、どうして生まれたのであろうか、私にとっても不思議な空間である。狩猟や採集を主な生業(なりわい)としてきたサンの人びとは、大昔からこの地に暮らしてきたといわれるが、かつて降雨の多い時代にこの川床で水が流れていたことを知る人はいない。

ところが、その痕跡を裏付ける話が、彼らの神話のなかに生きている。ピーシツワゴというカミが、狩りの途中で毒蛇に睾丸(こうがん)をかまれて痛みと苦しみのなか、ある湖に水を求めて移動したという。その途中、苦しまぎれに蛇行して、現在の川床ができあがったと考えているのだ。そして、現在でもカミはワニの姿をして湖に住んでいると彼らは信じている。

近年、地球温暖化の影響なのか、カラハリ砂漠の降雨も気まぐれである。私は、干ばつによって水位が低下した湖のことをカミがどう思っているのかと、サンの人びとに尋ねたくなった。

国立民族学博物館 池谷和信
毎日新聞夕刊(2008年11月12日)に掲載