便利?不便?(2) ─カヴァの席を囲む─
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調査のためフィジーで長期滞在していた当初、なにより不便に感じたのは、人と知り合いになる時に要される手間と手順であった。やくざ映画の渡世人が一宿一飯を請うて仁義を切るように、初対面の方には、必ずカヴァと呼ばれる木の根を手土産として渡しながら、セヴセヴという型どおりの挨拶(あいさつ)の口上を述べるフィジーの文化がある。挨拶の後も人々は車座となり、先ほどのカヴァを水につけて絞り出した液を、精緻(せいち)に組み立てられた作法に従って口にする。座は短くても数時間、時には深夜まで続く。
幅広い人々から聞き取りをする人類学の仕事上、1軒訪ねるごとに行われる儀式に費やされる時間は無駄に感じられることもあった。先に不便と述べたゆえんである。
ところが現地滞在も終わりに近づいたころ、もう少し話を聞き出せそうに感じたら、よくカヴァのおかわりを所望した。ゆったりとした時間のなかで濃密な人間関係を紡ぐことは、知り合いのネットワークに組み込まれるという形で将来の仕事のための貴重な投資にもなることに気づいたからである。不便から次の便利が生まれる。なにより国は違えども、酒盛りが楽しくないわけがない。
国立民族学博物館 丹羽典生
幅広い人々から聞き取りをする人類学の仕事上、1軒訪ねるごとに行われる儀式に費やされる時間は無駄に感じられることもあった。先に不便と述べたゆえんである。
ところが現地滞在も終わりに近づいたころ、もう少し話を聞き出せそうに感じたら、よくカヴァのおかわりを所望した。ゆったりとした時間のなかで濃密な人間関係を紡ぐことは、知り合いのネットワークに組み込まれるという形で将来の仕事のための貴重な投資にもなることに気づいたからである。不便から次の便利が生まれる。なにより国は違えども、酒盛りが楽しくないわけがない。
国立民族学博物館 丹羽典生
毎日新聞夕刊(2008年12月10日)に掲載