便利?不便?(7) ─ヤシの葉のうちわ─
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調査のため南米アマゾンに長期滞在していたとき、片時も手放さなかったものがある。地元産のヤシの葉のうちわである。アマゾンでは夜でも暑いため、寝床についてからもあおぎ続け、おかげでわたしの友人たちは、パタパタという音がやむことで、わたしが眠りこけた瞬間を正確に把握できたそうである。
このうちわのすごいところは、その多機能性である。蚊を追い払える。日よけや雨よけになる。地べたに座るとき、ござにもなる。森に分け入るとき、小枝や草を払うことができる。クモの巣があっても大丈夫。ついでに、カエルやサソリが家に入ってきても、これで撃退できる。
当時、お気に入りの一本があった。作りが丈夫で、形がよく、編み目が美しく、使っているうち光沢すら出てきた。このうちわであおぎながら村を闊歩(かっぽ)すれば、女性がわんさと寄ってくる、なんてことはなかったが、そんな妄想をあおる一品だった。
アマゾンを去ってからも、このうちわはしばらくとっておいたが、やがてじゃまになって捨ててしまった。日本に戻り、夏が来て、紙とプラスチックのうちわをパタパタさせながら、便利とは何かをときどき考えている。
国立民族学博物館 齋藤 晃
このうちわのすごいところは、その多機能性である。蚊を追い払える。日よけや雨よけになる。地べたに座るとき、ござにもなる。森に分け入るとき、小枝や草を払うことができる。クモの巣があっても大丈夫。ついでに、カエルやサソリが家に入ってきても、これで撃退できる。
当時、お気に入りの一本があった。作りが丈夫で、形がよく、編み目が美しく、使っているうち光沢すら出てきた。このうちわであおぎながら村を闊歩(かっぽ)すれば、女性がわんさと寄ってくる、なんてことはなかったが、そんな妄想をあおる一品だった。
アマゾンを去ってからも、このうちわはしばらくとっておいたが、やがてじゃまになって捨ててしまった。日本に戻り、夏が来て、紙とプラスチックのうちわをパタパタさせながら、便利とは何かをときどき考えている。
国立民族学博物館 齋藤 晃
毎日新聞夕刊(2009年1月21日)に掲載