国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

嗣(つ)ぐ・承(つ)ぐ・継ぐ・接ぐ(2) ─「頭目」の責任─

異文化を学ぶ


台湾の原住民族のパイワンの社会では、男女問わず、長子が家の跡取りとなる習慣がある。集落や地域のリーダーである「頭目」を女性がつとめていることも少なくない。「頭目」はかつて村をまとめ、身寄りのない子どもや年長者の面倒をみるといった社会の要となる存在であった。今では、受け継がれてきた祭礼を取り仕切るという大切な役割を継承している。

昨年の10月、私が世話になってきた村で5年に1度開催される五年祭が挙行された。私も楽しみにしながら出かけたところ、村の「頭目」が体調を崩し、なんと病院のICUに入っていた。見舞いに赴いた私に、彼女は「頭目の責任は重い」と話した。非常に疲れた様子から、祭りへの参加は無理なように思われたが、村に行くと、祭りの準備は粛々と進められていた。そして、最も大切な儀礼の日に、「頭目」は一時退院して村に戻り、残暑厳しい中、伝統衣装に身をつつみ、ほぼ一日がかりの儀礼を見事にやってのけた。祭りの後、村人に「頭目」はすごいねと話したところ、「頭目の責任は重い」という同じ言葉がかえってきたのには少し驚いた。

「頭目」が受け継ぐのは地位や財ではない。責任の重さという共有された意識なのである。

国立民族学博物館 野林厚志
毎日新聞夕刊(2009年2月18日)に掲載