国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

いきいき五感力(5) ─ 嗅覚の神秘 ─

異文化を学ぶ


人間の五感の中で視聴覚への依存度がとりわけ高いように思う。「見ざる、言わざる、聞かざる」と言うのは、視聴覚によって得る情報量の多さを逆に示している。

しかし、動物一般には食物の選別や交配対象への接近など嗅(きゅう)覚が重要な役割を担う。種の存続は嗅覚にかかっている。だからか、他に比べ、嗅覚の情報は快・不快などの情動反応の神経回路にずっと直結しているという。

普段あまり意識しないが、動物であるヒトも、うわべのごまかしのきかない深い情報を嗅覚から得て、身体反応を起こす。アロマテラピーによる癒やし、家族団らんを思い出させる料理の香り。日本なら「くさや」、中国なら「臭豆腐」のように臭いレッテルを堂々と張られた珍味があることも、嗅覚のまた奥深いところである。

国立民族学博物館 横山廣子

毎日新聞夕刊(2006年5月10日)に掲載