国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

いきいき五感力(6) ─ 興奮を味わう ─

異文化を学ぶ


インドからオセアニア西部にかけて、紀元前からベテル・チューイングが行われていた。ビンロウと呼ばれるヤシ科植物(アレカヤシ)の実と石灰を、胡椒(こしょう)科植物のキンマの葉で包みチューインガムのようにかむものだ。

かんでいるうちにだ液とまざって真っ赤になり、体がカッカと熱くなってくる。ビンロウに含まれるアルカロイドの作用である。つまり、味を楽しむというより、興奮を味わうのである。

ミクロネシアのヤップ島では今もビンロウかみが盛んで儀礼時には交換財にもなる。ここで調査をする際にビンロウが欠かせない。

まず、ビンロウの実を渡して一緒にかむうちに互いの緊張が解け、こみいった質問にも答えが返ってくるようになる。興奮という味のもつマジックであろうか。

国立民族学博物館 印東道子

毎日新聞夕刊(2006年5月17日)に掲載