国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

働くということ(1) ─ 貸本 ─

異文化を学ぶ


姫路市内に住み始めて四半世紀。その間に姫路城周辺の景観は一変したが、岡町のバス停近くに今もブリキ製の古い看板を掲げたまま閉じている平屋が残っている。錆(さ)びてかすれているが、通勤に使うバスの窓からでも文字は読める。貸本屋だ。懐かしい。

小学生のころ、よく近所の貸本屋に行った。月給取りの世帯が内職で開いていた。看板は「貸本」と手書きした厚紙。それを玄関のガラス引き戸の脇に画びょうで留めただけ。そこで1日1冊10円の漫画本を借りては読みふけっていた。石森章太郎の『怪人同盟』など。

明治時代の伊香保には、温泉宿を巡る湯治客相手の貸本屋もあった。貸本屋は、駄菓子屋とともにどこの片田舎にもあった。駄菓子屋は今も各地に見かけるが、貸本屋は消えた。


国立民族学博物館 近藤雅樹

毎日新聞夕刊(2006年6月7日)に掲載