もてなしのかたち(8) ─ 塩茶とバター ─
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ネパール高地でチベット人の家に滞在したことがある。そこでのもてなしは、煮出したたん茶に塩とバターを入れ撹拌(かくはん)した「塩茶」だった。寒風が吹く戸外から戻り、いろりばたでこの茶を飲む時ほど安らぐことはない。何杯か飲むと、いった大麦の粉を茶碗に入れてくれ、その上に茶を注いでくれる。茶をすすっては、湿った粉を人差し指にからめて口に運ぶ。最後は粉を手のひらでぎゅっと握り団子にして食べる。
そんな生活を1カ月続け、別れの日がきた。家族は旅の安全を祈って私の頭にバターを載せ祝福してくれた。これがチベット人の別れのもてなしらしい。後ろ髪を引かれる思いで歩きだすと、溶けたバターが目に入ってくる。惜別の涙か、バターによる涙か自分でもわからぬまま、村を後にした。
国立民族学博物館 南 真木人
そんな生活を1カ月続け、別れの日がきた。家族は旅の安全を祈って私の頭にバターを載せ祝福してくれた。これがチベット人の別れのもてなしらしい。後ろ髪を引かれる思いで歩きだすと、溶けたバターが目に入ってくる。惜別の涙か、バターによる涙か自分でもわからぬまま、村を後にした。
国立民族学博物館 南 真木人
毎日新聞夕刊(2007年1月31日)に掲載