当館の春の特別展は「千家十職×みんぱく」である。すでにご覧になられた方もいらっしゃるであろうが、民博では珍しい、茶道具を核とした展覧会である。伝統のわざに支えられた現代的感覚が作り出した作品群はこれまでにない世界をかもし出している。
その会場の茶碗(ちゃわん)や棗(なつめ)、香合などの作品の前にくると、かならず聞こえる観覧者の声がある。「手にとってみたいわね」
そうなのだ。目ですがたかたちを追うだけでなく、手にとって、その感触を楽しむというのも鑑賞のひとつのありかたである。
幸いなことにわたくしは展覧会の裏方として借用、展示作業のなかで数多くの作品にふれることができた。箱のひもを解き、ふたを開け、裂(きれ)に包まれた 作品を取り出すときの緊張感。そしてその作品をたなごころに置いたときの言いしれぬ感動。目でみるときとはまったく別の世界がひろがってくる。時間を越えて作者の思いを実感する瞬間といえる。
しかし、その感動は共感することができない。作品は文化財として保護されるべき対象でもあるからだ。ケースの前に立って、それを自らの手にした瞬間に思いをいたすのも大事な鑑賞の法でもある。でもみなさんにも手にとってもらいたいなあ。
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