昨年の暮れに、私は、インド洋に浮かぶマダガスカル島の森に滞在していた。ここはバオバブの樹(き)がみられる豊かな森であるが、年に8カ月もつづく乾期になると地表の水が乾いてしまう場所でもある。しかし、ミケアの人びとは、狩猟や採取をなりわいの中心にして、古くからこの森に暮らしてきた。
私は、暑さのなか、集落にまったく水がないという状況に不安を覚えた。毎日、村の男性は、先端に鉄片のついた掘り棒を使って、太さ5センチ、長さ30センチ余りの、「バブー」と呼ばれる野生のイモを20本近く掘り出してきた。そして集落にもどり、平らな木の面に80本余りの細木を打ち込んでつくった、まさにダイコンおろしのような道具を使って、イモをおろした。下には、円形状に束ねた小枝でつくったふるいが置かれて、すりおろしたイモから水分を分離する仕掛けになっていた。
私もその水を飲ませてもらったが、くせがなく、そのおいしさには驚いた。イモを水にする彼らの技術をみていると、極限の環境に感じられるところでも、人には計り知れない知恵をふりしぼることで生きてゆけることを思い知らされた。
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