旅・いろいろ地球人
人、アートと出会う
- (1)極北のアーティスト 2009年10月7日刊行
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岸上伸啓(先端人類科学研究部教授)
滑石彫刻を仕上げる1984年の夏にはじめてカナダの極北の地を訪れた。村のキャンバス製のテントが点在していた。恐る恐る入ってみると、男たちが談笑しながら、滑石彫刻を制作していた。これが私のイヌイット・アートとの出会いである。
イヌイットの滑石彫刻は、ヒューストンというカナダ人によって奨励され、49年から制作されるようになった。イヌイットは、地元産の滑石の中にホッキョクグマなど動物の姿、ハンターや母子の姿などをイヌイット独自の視点からたくみに描き出している。 あたかも人間のように踊るクマや2本足で立つトナカイの姿はユーモアたっぷりだ。また、今では記憶の中にしか残っていない、かつての狩猟生活が滑石の中に刻み込まれている。
イヌイットは、50年代末から版画も制作するようになった。彼らは狩猟活動に必要なライフルの銃弾やガソリンを購入するお金を稼ぐために、アート制作を従事しているのである。 それは芸術ではないが、いまやイヌイット・アートとして世界中で認められている。
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