旅・いろいろ地球人
人、アートと出会う
- (8)人生のデザイン 2009年11月25日刊行
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佐藤浩司(民族社会研究部准教授)
インドネシア・スンバ島の家づくりある種の昆虫や鳥のなかにはみごとな巣作りの才能を発揮する者たちがいる。その造形感覚たるやまさに芸術品。もっとも、その作者にしてみれば、ただ本能にしたがい日々のいとなみを繰り返しているだけのことだ。
人間の家づくりは本能とはいえないが、かつての民族社会はしばしば度肝を抜く造形で私たちの住宅観を一蹴(いっしゅう)してくれた。 ひとりの天才ではなく、みんなで創(つく)ったデザインとでも言おうか。快適に住むなどという現代家庭のささやかな常識は歯が立たない。 なにが彼らをそうさせたのか?といえば、そこに人生の意味があったからだとしか答えようがない。みずからのよってたつ自然のなかでみずからの存在を紡ぐ。快適な都市生活に慣れた者には鬱陶(うっとう)しいだけの話かもしれない。それでも、日々の生活そのものに生きている実感は充(み)ち充ちていた。
アートの本質は私の存在とは何かを教えてくれることにある。現代社会では、家も衣服も食べ物も、アートでさえ商品として手にはいってしまう。人生の痕跡をのこすせっかくのチャンスを私たちはみすみす失ってきたのではないかとおもう。シリーズの他のコラムを読む
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