旅・いろいろ地球人
そう言えば、あのとき・・・・
- (3)身も心も揺れて 2010年4月21日刊行
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飯田卓(文化資源研究センター准教授)
ボート上で作業するマレーシアの漁師沿岸漁業の暮らしを調べていますと言うと、しょっちゅう聞かれることがある。「じゃあ、船にも乗るんでしょう?船酔いとかはしないんですか?」
それがめっぽう、乗りものには弱いのだ。小学生のとき、林間学校へ向かうバスでは何度も吐いた。今でも、船上で調査していて、しょっちゅう吐きそうになる。それでもそうしないのは、漁師さんに申し訳ないと思うからだ。小さな船に乗せてもらうだけで迷惑だろうに、船酔いなんてとんでもない。
だが正直にいうと、そんなにカッコよく書けるのは、調査で船酔いして漁業研究者の自尊心を傷つけられた「あのとき」があればこそだ。大学院を出て3年目、マレーシアで調査したときのことだ。
外海に面した水域で、船外機つきボートに揺られながら小さな文字を書いていて、気づいたときには吐いていた。
陸に上がっても揺れがおさまらず、横になっていると、船に乗せてくれた漁師が、私の滞在先の大家のところへやって来た。「こいつ、船の上で吐いちゃってさ」。漁師と大家は笑い合った。一方、私はそれに応じるだけの語学力も気力もなく、黙って横たわるだけだった。シリーズの他のコラムを読む