ルーマニア北西部のマラムレシュ地方にある「陽気なお墓」。キリスト教会付属の墓地なんて、常識からすれば陰気な場所の極み、のはず。しかし、ここは違う。林立する墓標には、故人の人生が愛情をこめて明るく楽しい絵と物語で表現されている。
たとえば、「彼はお酒が好きでした。そしてお酒の飲みすぎて死んでしまいました」。あるいは「彼は自動車が好きで、最後も交通事故で亡くなりました」。
悲しいはずの記憶が故人への溢(あふ)れんばかりの慈しみへと変えられる。
この墓地の始まりは今から半世紀以上も前のこと、ひとりの職人がユニークな墓標を作った。墓標は村の人がひとりまたひとりと亡くなるにつれて増えていった。そして、いつしか墓地は陽気な墓標でいっぱいになった。
人は死を免れることはできない。別れは絶対的だ。二度とまみえることはできない。しかし、人は「想起」することで、いつも故人の傍らにいることができる。それならば、楽しい記憶とともに寄り添ったほうがいい。
陽気なお墓は死に対するひとつの考え方を示している。死者は記憶のなかで生者とともにある。そして死を恐れず受け入れよ、と。
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