国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

お墓のはなし

(2)伝統の中で眠れる幸せ  2010年8月11日刊行
太田心平(研究戦略センター助教)

饅頭のように盛り土された韓国の伝統墓地
韓国には、60歳の還暦を盛大に祝う習わしがある。子や孫たちがお祝いに集まり、それはそれは和やかで、傍目(はため)にも微笑(ほほえ)ましい宴(うたげ)だ。主人公の前には、豪華な食べ物がうず高く積まれる。

ところが、ある米国の人類学者はその御馳走(ごちそう)が葬式供物と同じだと指摘した。不吉でギョッとする横やりだが、実はこれにも一理あり。

理由の一端は墓にある。韓国の墓と言えば、遺体を土葬し、盛り土をした饅頭(まんじゅう)型の伝統墓地が有名だ。先祖代々の山の中、そんな墓地で韓国人は眠りたがった。

ただ、墓地に埋葬されるためには、一つ条件がある。自分を祀(まつ)ってくれる跡取りをもうけておくことだ。条件を満たせず死んだ者は、火葬のうえ、山海に散骨し、存在を歴史から消す。その散骨風景の悲壮さたるや!

かつて還暦ともなれば子も孫もいるものだった。人事を全うし、自分の祭祀(さいし)は保障されていた。ならば、還暦祝いは無事な葬儀が約束された前祝いだったのだ。

近年、韓国でも晩婚化が進み、生涯独身者も増えてきた。墓守りの難儀も疎まれる。いまや伝統墓地を選ぶ人は減り、逆に火葬場と合祀(ごうし)納骨堂が好まれている。
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