火山がないネパールにも温泉がある。ヒマラヤ南麓(なんろく)を東西にはしる地下断層の運動で摩擦熱が生じ、そこから湯がわくのだそうだ。湯がわけば、ためて入りたくなるというもの。断層上に点在する温泉は、タートパーニー(湯)と呼ばれ、露天の湯ぶねや雨露をしのぐ簡素な小屋がつくられている。
もっとも、たいていの温泉は徒歩でしか行けない山奥にあり、あまり知られてもいない。都会の人が温泉を目的に訪ねてくることはまずない。ネパールの温泉は、今もって地元の人びとだけが楽しむ、秘かなくつろぎの場なのだ。
例外は、西ネパールのミャグディ川沿いにある温泉だ。屋根つきの大きな露天風呂があり、近くには湯治客向けの宿や飲食店が軒を連ねる。私が通りかかった農閑期の3月には、近隣からの湯治客で混みあっていた。そこはまるで巡礼地のような非日常のにぎわいがあり、観光の原点を垣間見た気がした。
ちなみに、入浴は時間帯で男女別に分けられており、下着の着用がマナーだ。温泉に下着なんてと思われるかもしれないが、ここに一人素っ裸で入るなど、考えただけで身がちぢむ。それこそ、くつろぐどころではないだろう。
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