国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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くつろぐ

(3)韓国の銭湯  2011年2月16日刊行
朝倉敏夫(文化資源研究センター教授)

入り口に靴磨き。身だしなみを整える場でもある。
大阪の在日韓国人社会で、戦前に日本に来た韓国人の子孫たちは、近年韓国から来た、いわゆるニューカマーの人とは、別の銭湯に行くという話を聞いた。日本の風呂文化に慣れ親しんだオールドカマーには、韓国の風呂文化は刺激が強すぎるのかもしれない。

実労働時間が長い韓国のサラリーマンにとって、仮眠室や食事処(どころ)もととのった銭湯は、格好のくつろぎの場である。

脱衣室で服を脱ぎ、前もかくさずどうどうと浴室に入る。シャワーを浴びるのも、他人に気遣いするそぶりもない。洗い場にマグロのように横たわるのも自由である。他人と摩擦がおこっても「ミアネヨ(すみません)」ではなく、「ケンチャナヨ(大丈夫でしょ)」の一言で終わり。幼い頃から他人に迷惑をかけないようにと躾(しつ)けられる日本人には、韓国の奔放(ほんぽう)な風呂文化は面食らうことばかりである。

韓国の銭湯には理髪店もつきものだ。理髪した後、すぐに身体を洗い流せるのは合理的である。しかし、真っ裸の無防備な姿で、首にカミソリが当てられるのは勇気がいる。

韓国の銭湯でくつろぐには、日本の風呂文化を脱ぎ捨ててから入らなければならない。こうした裸のつきあいを経て、異文化のなかで真のくつろぎを得る。
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