ここ6年ほど発掘調査をしている南米ペルー北高地のパコパンパ村は、戸数100にも満たない小さな村だが、社交クラブが二つもあり、スポーツのほか、劇も演じる。いわゆる宗教などにかかわる伝統演劇ではなく、現代演劇である。これまでの演目の脚本も残っているという。
一昨年の村祭りで見た演目は、お決まりの許されない愛の物語。裕福な家庭の娘が、親の反対に遭いながらも貧しい男と結婚し、生活に苦しむという内容であった。
勝手にハッピーエンドを期待していた私は、家族全員が神の名を叫びながら泣き崩れる場面であっけなく幕が引かれたときには狼狽(ろうばい)してしまった。神も救えぬ貧困の現実を直視せよということだろうか。
上演後に、演出家や演者に尋ねると、そんな小難しいことを考える人など誰もいなかった。メッセージよりも、皆が余暇を使って練習した成果を発表できた満足感や、演技や台詞(せりふ)回しを評価する声ばかりで終始なごやかであった。
現実から逃避し、観劇にカタルシスを求めようとしがちな私たちとはちがったくつろぎ方が、村人の間で共有されているのであろう。貧困がテーマなのに、なぜか温(ぬく)もりを感じた奇妙な経験であった。
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