テヘラン市内の大きな公園に行くと、赤や黄色に塗装された、一見子どもの遊具のようなものが何種類もずらりと並んでいる。大人用のエクササイズ器具である。モーターは一切ついておらず、動力源はあくまでも人間の筋肉と重力。ぶらさがる、まわす、踏むなどの運動を通して、バランス感覚や筋力を鍛えるための道具である。
ここは、仕事のみならず、公害、交通渋滞と、何かとストレスが多いテヘランっ子が、ちょっとした空き時間にお金をかけず、体と同時に尖(とが)った神経をほぐす、くつろぎの場となっているのである。
この大人の遊具を初めて見たとき、やにわに童心にかえり、駆け寄って試してみた。一通り遊んで満足したころ、ようやく周囲の妙な視線に気付いた。私の子どもっぽい様子が傍人の苦笑を誘っているのかと思いきや、そうではなかった。あまりの物珍しさと楽しさに、そこがイランであることを忘れていた。この国では女が公の場で、しかも男と同じ空間でスポーツをしてはいけないのであった。
よく見ると、少し離れたところに、ビニールシートで中が見えないようになった別コーナーがあり、女性用のエクササイズ器具はその囲いの中に設けられていたのだった。
シリーズの他のコラムを読む
-
(1)ヒマラヤの温泉 南真木人
-
(2)ティザーヌを飲む 園田直子
-
(3)韓国の銭湯 朝倉敏夫
-
(4)午睡の楽しみ 丹羽典生
-
(5)漢族葬儀の楽隊 韓敏
-
(6)貧困劇の楽しみ方 関雄二
-
(7)遊具でストレス発散 山中由里子
-
(8)ハンモックにゆられて 齋藤晃
-
(9)ジャワ島の音楽家 福岡正太