わたしの専門とするウラル語族言語学では、学者はそれぞれ研究対象言語にくわえ、作業言語として、この分野で必需のフィンランド語、ハンガリー語、エストニア語のほか、英語、ドイツ語、ロシア語、スウェーデン語ができてあたりまえ。自慢にもならないのだ。これらの言語の飛び交う国際ウラル学会では、2~3言語しかできぬ日本人にとって何語で質問されるかハラハラものである。
しかし知人のフィンランド人、J・ヤンフネンさんの場合は並みのウラル学者とはまた、ちょっと事情が違う。
ヤンフネンさんは30歳代でさらにアルタイ語学に移り、そこでまたモンゴル語、満州語、韓国語を修めてしまった。しかし話はそこでおわらない。これらの研究の過程で、中国語、日本語も操れるようになり、近年は、チベット語にまでかかわりはじめている。
日本でも「何十言語の達人」とかいうポリグロット(多言語話者)ぶりを自慢する本を目にするが、たいていは雑学レベルである。しかしヤンフネンさんは、これら言語の読み書きまでさりげなくやってのける。決して語学力をひけらかしたりしない。英語ができてバイリンガルとさわぐ日本ならモンスターということになろうか。
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