国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

緑薫る

(3)カザフ草原の川遊び  2013年5月16日刊行
藤本透子(国立民族学博物館助教)

水にもぐる練習=カザフスタンで著者撮影

カザフスタンの広大な草原に位置する村に、2年間暮らしたことがある。冬は零下30度を超える厳しい寒さが続き、5月にようやく草が萌(も)えいでる。やがて草原は一気に緑に染まり、小川沿いに花が咲き乱れる。

そんなある日、滞在先の子どもたちと遊びに出かけた。小川の砂州は放牧中の家畜が一休みする「ヒツジの寝床」、湧き出る泉はラクダが溺れるくらい深いから「ラクダの背丈」と言うと教えてくれる。牧畜が生業のため、地名も家畜に関係するのがおもしろい。

この小川や泉で、子どもたちは大はしゃぎで魚釣りに興じる。古い木の棒に糸を結び、大事な釣り針をつけてたらすと、フナやカワスズキがかかる。普段は肉と乳製品が中心だが、魚を揚げて食べることはたまの楽しみだ。

川や泉での水泳も、夏だけの遊びのひとつ。両手の親指で鼻をふさぎ、人差し指で耳をふさいでもぐりの練習、それができたら泳ぐ練習をする。年長の子が年下の子に教えるが、ときにはふざけて水の中で足を引っ張ることもある。あたりには水しぶきが飛び散って、子どもたちの歓声が響く。

乾燥した冷涼な気候のため、8月ともなると草は次第に黄色く枯れ始める。それだけに、わずかなあいだ緑に潤う草原は、夏の恵みに満ちている。

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