旅・いろいろ地球人
緑薫る
- (6)聖なる大樹 2013年6月6日刊行
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菅瀬晶子(国立民族学博物館助教)
布がはためく大樹。木陰に置かれたしょく台(中央)には夏の夜、ろうそくがともされる=イスラエルのマクルで、筆者撮影パレスチナ・イスラエルやヨルダンなどで村に出かけると、ときどき奇妙な光景に出くわすことがある。樹齢100年以上は経ているであろう大樹に、たくさんの布がぶらさがり、風にはためいているのだ。布はたいてい緑色だが、時折白や赤など、別の色を見かけることもある。夏の夜になると木陰にろうそくが灯され、人びとが憩う姿もみられる。日本人であれば、神社仏閣にあるご神木をまず思い浮かべるであろう。
そしてまさにこれらの大樹も、聖なる存在にほかならない。布を巻いて願をかけ、その枝や実を持ち帰れば病が癒えたり、願いがかなったりすると人々は信じている。興味深いのは、このような聖樹崇敬がこの地のあらゆる宗教、つまりイスラムやキリスト教、ユダヤ教、ドルーズと呼ばれるシーア派イスラムの分派にまで浸透しているという事実だ。
一神教以前の自然崇拝をそこに見いだし、邪道だと批判する厳格な人々もいるが、聖樹崇敬が今もあちこちに息づいていることも事実。「すべての恵みの源は神。ならばこの年を経た木も、神の恵みにほかならない」と、聖樹を愛する人々は言う。
聖樹を見かけると、わたしも必ず願をかける。この地の友人たちや、聖樹を守り愛する人々に、幸あれかしと。
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