国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

冬を楽しむ

(3)掘っ立て小屋のぬくもり  2013年12月26日刊行
池谷和信(国立民族学博物館教授)

スコップを貸してくれたコーサ族の女性=南アフリカ、ケープタウンで1995年、筆者撮影

わたしは、1993年12月から約8ヵ月間、南アフリカのケープタウンに暮らした。ここは、アフリカといえども寒い冬がある。南極から吹く風はとくに冷たい。近くの海岸には、ペンギンやオットセイが生息しているのもうなずける。

一方で、高層ビルが立ち並ぶ街の中心部から車でわずか20分も走ると、見渡す限り掘っ立て小屋が並んでいる。電気もないトイレもない所もあり、約20万人以上が暮らしているという。当時、この地域は犯罪の温床であるとみられ、近づいてはいけないとされていた。

しかし、そこに暮らすコーサ族の知人ができて、遊びに行って驚いた。家のなかは広告紙を張ってきれいにしている。パラフィンのランプは意外と明るい。それに、スコップなどお互いがものを貸し借りして、助け合いの精神が生きている。確かに、家のなかは暖房もなく寒かったが、人びとにもてなす心があって温かい気持ちになった。

当時、中心部に白人、郊外に黒人が暮らすという人種ごとのすみわけをしていた。わたしは中心部に暮らしていたが、隣人のことをまったく知らなかった。中心部と郊外での暮らし、どちらが豊かなのかを考えさせられた。

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