国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

冬を楽しむ

(4)2年に1度の「使者祭」  2014年1月9日刊行
岸上伸啓(国立民族学博物館教授)

使者祭のドラムダンス=米国アラスカ州バロー村で2013年2月、筆者撮影

北極海に面した米国アラスカ州バロー村では、11月の下旬から1月の下旬にかけて長夜が続き、気温も氷点下20度以下になる。さらに、強風が吹くとその地に住むイヌピアットの人々は村の中に閉じ込められることもある。

狩猟などの野外活動が低調になる冬は、もともと、祭りの季節だ。冬の祭りのひとつに、2年に1度、2月中旬にバロー村で開かれる「使者祭」がある。

バロー村の人々が使者祭に近隣の村々から友人や親戚らを招くと、数百人がやってくる。彼らは、バロー村の住人とともに約1週間もの間、毎日早朝から深夜まで、高校の体育館でそれぞれの村に伝わるドラムダンス(太鼓を使う踊り)を踊ったり、見たりする。また、昼食や夕食の時には小中学校の体育館で大規模な祝宴が開催される。村中が熱気に包まれる1週間である。

この祭りの時、バロー村の住人は、他の村のドラムダンスを見て楽しむだけでなく、いつもは会えない人たちと食事をともにしたり、プレゼントの交換を行ったりして旧知の関係を温める。また、新たな友人を得る機会でもある。

極寒の地に住むイヌピアットの人々は、祭りに集まった人とのふれあいを楽しむことで冬を乗り切るのである。

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