旅・いろいろ地球人
父親
- (2)ベルリンのイスメット 2014年11月27日刊行
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森明子(国立民族学博物館教授)
ベルリンの街角=2003年5月、筆者撮影イスメットは、12歳のときトルコの黒海沿岸の村から冷戦時代の西ベルリンに来た。妻も同郷で、6人の子がある。彼の弟、妻の弟、結婚した娘たちも近くに住む。数家族は全体でひとつの大家族のように親しく、長兄のイスメットはその父親格だ。
彼は会社で現場の親方をまかされている。これまで苦い経験をずいぶんしたが、子どもには話さない。子どもには、「すべての人を受け入れよ、ただし相手の境界がどこまでか、見きわめることを忘れるな」と教えている。
彼は明るい人柄であるが、老け顔である。若いころは自分のために、いまは子どもの心配で、休まるときがないという。たとえば、娘婿の行状、家の娘にかかってくる電話、インターネットは彼の管理下にあり、めったに接続させない…。
イスメットにとって、ベルリンは危険に満ちた世界であるようだ。家族を守るために、彼は、神経を研ぎ澄ましている。この想(おも)いが、彼にあらゆる窓口の警護を固めさせる。
「黒海のふるさとは、ベルリンと全く違う、すべてが安心で、自由で」と、イスメットの娘たちは、目を輝かせて語った。それは、イスメットが心に抱くふるさとのイメージそのものを映し出したものだと思った。
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