国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

父親

(3)出稼ぎと故郷への帰還  2014年12月4日刊行
河合洋尚(国立民族学博物館助教)

祠堂における祖先祭祀=中国・広東省梅県で2011年2月、筆者撮影

中国では、貧しい内陸から豊かな沿海へ出稼ぎに出る人々が多い。両親がともに沿海に出稼ぎに行くため、故郷にはほとんど老人や子供しかいないという村もある。また、同じ沿海の省でも、地方から豊かな沿岸都市へ出稼ぎに行く現象がみられる。

私はここ10年間、広東省の山奥にある梅県に通っている。ここでは父親が不在であるため、母親や父方の祖父母が子供と暮らしている家庭がいくつもある。父親は普段、広州、深圳、東莞など沿海の都市で仕事をしており、年に数回しか実家に戻ってこない。

父親が実家に帰る時期はさまざまだが、特に春節(旧正月)と中秋節は帰郷する人々で溢(あふ)れる。この時期の列車やバスは、日本人が想像する以上に大変だ。列車のチケットはなかなか取れず、満員列車のなかで5時間以上立ちっぱなしということもある。バスは普段5時間で着くところが、渋滞で10時間以上かかることも珍しくない。

しかし、父親たちは毎年、妻子や両親、友人たちに会うため、そうした苦労を乗り越えて帰郷する。また、彼らは、帰郷すると祖先の祠堂(しどう)(位牌(いはい)を置く祭祀(さいし)場)を律儀(りちぎ)に訪れ、線香や供物を持って参拝する。彼らを支えているのは、家族、友人や祖先を何よりも大切にする人情である。

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