旅・いろいろ地球人
父親
- (4)わが子を婚約させるために 2014年12月11日刊行
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上羽陽子(国立民族学博物館准教授)
ゆりかごで眠るラバーリーの幼児=インド西部・グジャラート州で2010年、筆者撮影仕事をしない、賭け事にはまる、酒におぼれる。どこにもだらしない父親はいる。インド西部グジャラート州カッチ県のラバーリー社会でもそうだ。いくら注意されても改心しない。ところが、そんな父親の気持ちが一転する契機がある。子どもの婚約相手がみつからないときだ。
ラバーリー社会では、「ゆりかご婚約」という言葉がある。幼児期に婚約し、その数年後に結婚儀礼をする幼児婚の慣習が1970年頃まであったからだ。そのなごりとして、現在も7歳くらいまでに婚約を調えることが多い。移動しながら牧畜をするラバーリーにとって、移牧先の村落でのネットワークづくりが重要であった。幼児期の婚約は、助け合うことのできる姻戚を増やすという利点があるのだ。
両親の人柄、経済状況などを鑑みながら、良き婚約相手を親は探し出す。当然、しっかりしていない父親の元へは、婚約の打診がこない。いつまでも婚約の決まらないわが子をみかねて、若い父親は仕事を探したり、賭け事やお酒をやめたりする。
幼児期の婚約慣習は、わが子の未来を決定づけるため、親としての責任を自覚させる機能をもっている。ただ、婚約を調えると、再びだらしない父親に戻ってしまうことがあるのだが。
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