国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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踊る

(4)流行を身にまとう  2015年6月4日刊行
上羽陽子(国立民族学博物館准教授)

祭礼時には学校でダンスの練習もおこなう=2011年10月、インド・グジャラート州で筆者撮影

インド西部ではミラー刺繍(ししゅう)とよばれるガラスミラーを布に縫いとめる刺繍技術が盛んである。村の女性たちは家事や育児の合間に時間をみつけては自らの衣装や調度品にミラーを縫いとめている。

村で生活をしていると、この刺繍布を求めて、仲買人が大量に訪れる時期がある。ヒンドゥー教の女神を祀(まつ)る祭礼ナヴァラートリの頃だ。9日間の夜を意味するこの祭礼では毎夜、村の辻(つじ)や広場で女神への舞踊が奉納される。

ところが近年、街では奉納としての舞踊ではなく、ダンスがメインとなったコンテストが開催されるようになっている。特設会場ではきらびやかな衣装を身につけた老若男女が最新装置のライトや音楽とともに踊るのだ。その衣装にはミラー刺繍が多くもちいられている。

村落でつくられた衣装や刺繍布を仲買人が集め、都会のダンス衣装へとリメークしているのだ。ローカルな人びとの衣装やそれらをつくる染織技術に想を得た、エスニック・シックとよばれる現代ファッションの流行がこのダンス衣装にも影響を与えている。

流行をうけ、さらにはミラー刺繍風のスパンコールや手刺繍を真似(まね)たミシン刺繍によるキッチュな衣装もぞくぞくと登場している。月夜と異なり、人工的に照らされた衣装はそれでもきらきらと輝くのであった。

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