旅・いろいろ地球人
緑の男をめぐる冒険
- (1)郷土の英雄 2016年8月4日刊行
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菅瀬晶子(国立民族学博物館准教授)
聖ゲオルギオス像の前で、記念撮影をする地元のキリスト教徒たち=パレスナ自治区ベツレヘムで2014年1月、筆者撮影ジョージ、ときいて、あなたならどんな人物を思い浮かべるだろうか。読書家ならジョージ・オーウェル、ロック好きならジョージ・ハリスン、映画好きならジョージ・クルーニー。いずれもイギリス人やアメリカ人なのは、その名の由来となった聖ジョージが、イングランドの守護聖人であり、キリスト教の殉教聖人でも屈指の人気を誇る存在であるからにほかならない。
しかしその聖ジョージことゲオルギオス、実はイングランド人ではなくパレスチナ人だと言ったら、驚かれるだろうか。パレスチナには、彼の母親がパレスチナ人であり、聖人自身も幼少期をパレスチナで過ごしたという伝承があるのだ。
ローマ帝国時代最後のキリスト教徒大迫害で殉教したとされる彼の墓は、現在はイスラエル領にあたるリッダという町にある。墓所に建てられたギリシャ正教の教会では、毎年11月16日に殉教祭がおこなわれ、巡礼者でたいへんな賑わいをみせる。彼の墓に詣でれば無病息災、諸願成就の御利益があると信じられているのだ。
このゲオルギオスの墓には、キリスト教徒のみならず、ムスリムも詣でる。ゲオルギオスは同郷の英雄というだけではなく、イスラムでも不老不死の「緑の男」と呼ばれ、聖者とみなされているためである。
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