国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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マダガスカルの今

(2)密漁に揺れる国境  2017年2月16日刊行
飯田卓(国立民族学博物館准教授)

ヴェズの人びとが用いる帆走カヌー=南西地域圏で2014年、筆者撮影

モザンビーク海峡のまっただ中に、ジュアン・デ・ノヴァ島という小さな島がある。もっとも近いマダガスカル島からでも約200キロ。ウミガメの産卵場所として、また渡り鳥の経由地として重要だそうだ。まさに南海の孤島だ。

2016年4月、マダガスカル共和国の新聞は、この島で同国の漁業者ら187名が拿捕(だほ)されたと報道した。じつは、この島はフランスが実効支配していて、周囲の水域で漁をする外国船は密漁船とみなされる。

新聞によると、密漁船団は3隻の母船と49艘(そう)の小型船から成っていて、母船からはナマコ1.5トンと塩3トンが発見された。ナマコは、中華食材として海外へ輸出される。これを小型船が集めて、母船で塩蔵加工していたのだ。

拿捕された人たちのほとんどは、ヴェズと呼ばれる民族で、20世紀初頭頃(ごろ)から漁撈(ぎょろう)民族として知られるようになった。メーカーが製造する漁具や漁業機器などを導入せず、独自の方法で漁獲を増やしており、風力で船を帆走させる技術にもすぐれている。

ジュアン・デ・ノヴァに出現した密漁船の多くも、200キロを無寄港で帆走した可能性がある。少なくとも、母船に小型船を載せてきたのでないことは、写真に写った船の大きさから明らかだ。村落部の人たちが、国境を脅かしつつある。

シリーズの他のコラムを読む
(1)海に開かれた島国
(2)密漁に揺れる国境
(3)経済自由化と生活
(4)生活文化の商品化