国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

マダガスカルの今

(3)経済自由化と生活  2017年2月23日刊行
飯田卓(国立民族学博物館准教授)

イカ釣り用のルアーを自作する=南西地域圏で2003年、筆者撮影

前回紹介したヴェズの人びとのナマコ漁が本格的に始まったのは、1990年代、マダガスカル共和国があらたな憲法を定め、自由主義経済にもとづく国家運営を始めた頃だ。中華食材を求める国との貿易が拡大し、漁師のくらしは、農民よりはるかに豊かになった。

ナマコ以外の中華食材として、フカヒレが売れるようになった。鮮魚も冷凍して輸出するようになり、単価が上がった。ただ同然だったイカが高値で売れるようになり、イカ釣りのような専門的な漁が普及した。

イカを釣るうえで、漁師たちは、海外で製造されたルアーを分解して使う。木製の本体を自作して、鉤(はり)をはじめとする金属部分を、既製品から抜きとってとり付ける。彼らは釣り竿やリールを使わず、仕掛けを手で引くだけなので、既製品よりも浮力の大きい(軽い)もののほうが便利なのだ。

潜り漁の漁獲を高めるため、夜の潜水漁も始まった。使う道具は、中国製の小型で強力なLEDライト。これを防水するため、避妊用のコンドームでくるむ。道具の意外な使いかたを通して、新漁法がどんどん生まれている。われわれの想像とは異なる「近代化」によって豊かになっていく人たち。しかし、ナマコのような動きの鈍い動物は、こうした創意工夫のおかげで減少している。

シリーズの他のコラムを読む
(1)海に開かれた島国
(2)密漁に揺れる国境
(3)経済自由化と生活
(4)生活文化の商品化