旅・いろいろ地球人
ネパールの今昔
- (3)映像が持つ力 2017年3月23日刊行
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南真木人(国立民族学博物館准教授)
34年前の映像を見つめるバトゥレチョール村の人々=ポカラで2016年、筆者撮影国立民族学博物館制作のビデオテーク番組に「ガイネ―ヒマラヤの吟遊詩人」がある。1982年、藤井知昭名誉教授が率いる取材班がネパールのガイネ(現ガンダルバ)という楽師カーストの故郷、バトゥレチョール村で撮影したものだ。2016年、この番組のDVDを提供するため村を訪ね、34年を経た村の景観や生活の変化を再び映像に撮らせてもらった。
番組の主役の一人は、12歳のラム少年だった。観光地ポカラで西欧人旅行者に弓奏楽器サランギを弾きながら歌を聞かせる。その姿は痛々しいほどけなげだ。46歳の彼に、当然会えるものと期待していた。だが、村の男性は早世で、ラム少年も既に亡くなっていた。
公民館で1時間の番組2本の上映会を開くと、村人約200人が集まった。何せ1歳の赤ん坊が35歳になる歳月が流れている。故人を懐かしんでは泣き、生存者の幼い姿を見ては爆笑する興奮の一時となった。
気になったのは、ラム少年の19歳になる末子の反応だ。2歳の時に父を失くした彼に父の記憶はない。そんな彼が、父=ラム少年の歌で稼ぐ姿をほほ笑みながら見ている。思わずこちらの目頭が熱くなる。父譲りのサランギの名手といわれる青年だ。きっと父の遺志を感じとったに違いない。
今回の訪問は、映像が持つ力と博物館の使命を痛感させられる機会となった。
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