国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

カザフスタン点描

(3)春の大雪でそり遊び  2017年5月25日刊行
藤本透子(国立民族学博物館准教授)

草原に積もった大雪に、歓声をあげて遊ぶ子どもたち=パヴロダル州で2017年、筆者撮影

カザフスタン北部は、冬の気温が氷点下40度に達する。今年は春先の3月になっても寒く、夜は氷点下20度以下、日中も氷点下10度の日が続いた。乾燥した地域にはめずらしく大雪が降り、街と村を結ぶ道は閉鎖されてしまった。さえぎるもののない草原なので、家の周りが雪の吹き溜まりになった。暖炉にくべる石炭も足りない村にいると、「未来のエネルギー」という今年開催の万博のテーマが遠く感じられる。

しかし、吹雪がやんで明るい日が差すと、子どもたちは寒さをものともせずに外に出て、雪にはしゃいで元気にそり遊びに興じる。屋根の高さまで積もった雪の上から滑り降りるのはスリリングだ。休暇で街から村に戻ってきた子どもも、日が傾くまで一緒に遊び、あたりに歓声が響きわたった。

最近、村の子どもが親と一緒に、あるいは親元を離れて街に引っ越すことが増えた。親が街に仕事を求めたり、将来の進学や就職のために子どもを街の学校へ通わせようと思いやったりするためだ。

街で出会った少年は、「前は村の良さが分からなかったんだ」と大人びた口調で草原の村を恋しがっていた。この10年で、徐々に村の人口は減っている。草原の村にとどまるか、街に引っ越すか、村と街を往復しながら暮らすのか、村人たちは岐路に立っている。

シリーズの他のコラムを読む
(1)万博をひかえた首都
(2)草原に暮らす家族
(3)春の大雪でそり遊び
(4)若者に人気の日本食