国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

被災地からのメッセージ

(5)思い出を取り戻す  2017年8月31日刊行
林勲男(国立民族学博物館教授)

津波と火災に遭った門脇小学校=宮城県石巻市で2013年5月、みらいサポート石巻提供

東日本大震災の津波被災地では、思い出を救出する活動がおこなわれた。写真やそのアルバム、卒業証書、位牌、人形、野球のグローブ、楽器などが瓦礫の中から拾い集めて洗浄され、すでに使われなくなった学校の体育館などにきれいに並べられて、持ち主を待っていた。

また、地震や津波で大きく破壊された建造物(遺構)を保存しようとの声も上がり、国も1自治体当たり一つの遺構の保存を支援することにした。結果的に解体・撤去されたものも多いが、震災遺構として保存が決まったものには、学校の校舎が複数含まれている。

保存か解体かをめぐって地元で意見が大きく割れた災害遺構もあった。災害の悲惨さ、喪失感、無力感を思い出したくない、復興の妨げである、予算は生活再建や地域の復興に使うべきだ、などとの意見もあれば、自然の脅威を認識し、将来の防災のための教訓を伝えるためにも残すべきだとの意見もあった。

保存が決まった校舎には、災害の傷跡や記憶だけでなく、そこで学んでいた子どもたちや、卒業していった大人たちの思い出も多く残っている。皆で分かち合う思い出もあれば、一人一人の心に大切にしまわれた思い出もある。かつての友や自分と対話する場所や目印が、そっと残されているのかもしれない。

シリーズの他のコラムを読む
(1)未来の担い手たち
(2)遺構・遺物が伝えること
(3)復興への交流
(4)ため池と暮らし
(5)思い出を取り戻す