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負の記憶の博物館
- (2)日本軍「慰安婦」歴史館 2017年12月14日刊行
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平井京之介(国立民族学博物館教授)
日本からの来館者も多い日本軍「慰安婦」歴史館=韓国京畿道広州市で2014年、筆者撮影
韓国のソウル市内から地下鉄とバスを乗り継いで約1時間半、閑静な住宅地に日本軍「慰安婦」歴史館はある。アジア太平洋戦争で日本軍から受けた性暴力を伝えるために、仏教団体と、日韓市民の支援によって設立された。解説は韓国語だけだが、ガイドによれば、来館者年間約3000人のうち、3~4割が日本人だという。
館内では、さまざまな記録文書とともに、慰安婦の歴史に関する基本的な情報がわかりやすく紹介されている。また、慰安所室内の再現模型などを通じて、被害者の経験を来館者に想像させる仕掛けもある。しかし、これら以上に強く印象に残ったのは、その後で観た芸術作品の方だった。
画家ユン・ソクナムが制作した「光の美しさ、生命の尊さ」という作品は、昇天する被害者の魂を象徴する肖像画で、その前に香炉とろうそくが置いてあり、帰郷がかなわなかった被害者のために、ここでは誰もが祈ることができる。
「告発の場」と題したコーナーには、意外にも告発するパネルなどはなく、ただ被害者の作品と遺品が並んでいた。作品は素朴なものだが、彼女たちの経験や記憶を象徴的に表している。
負の記憶の博物館は、慰霊の場でもある。被害者に思いをはせることは、過ちに真摯に向き合うことにもなるだろう。
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