旅・いろいろ地球人
負の記憶の博物館
- (4)水俣病歴史考証館 2017年12月28日刊行
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平井京之介(国立民族学博物館教授)
被害者の立場から問題点を訴える水俣病歴史考証館=熊本県水俣市で2015年、筆者撮影
熊本県水俣市中心部から3.5キロほどの丘の上に、1970年代から水俣病被害者を支援してきた非営利団体がある。水俣病センター相思社だ。その敷地内の一番奥に、元はキノコ工場だった建物を改造して作った、手作りの資料館がある。水俣病歴史考証館という名は、水俣病の歴史を材料に、現代社会を検証しようという意図でつけられた。
展示内容はきわめて攻撃的である。人と自然が水俣病によってどれだけ傷つけられたか、加害企業はどうやって成長したか、なぜ原因究明が遅れたのか、被害者の訴えはどう抑圧されたか、政府の解決策にはなにが足りないか。これらの問題を被害者の立場から徹底的に告発している。
展示も興味深いが、考証館の一番の魅力は展示ガイドである。個人客も含め、希望者全員がしてもらえる。たんなる展示物の紹介ではない。水俣病センター相思社の職員が、支援活動のなかでみつけたこと、考えたことを、ときに脱線しながら、身振(ぶ)り手振りを交えて情感豊かに語りかけてくる。そして来館者に深く考えてみるように迫るのだ。
彼ら自身は被害者ではない。被害者家族でもない。水俣に魅せられて住みつくようになったよそ者たちだ。そんな彼らの語りが、なぜか人の心を強く揺さぶる力を備えている。
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