国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

キルトのある暮らし

(4)人生の物語を紡ぐ  2018年1月25日刊行

鈴木七美(国立民族学博物館教授)


1940~50年代に米国で使われたフィードサック=国立民族学博物館提供

キルトとそのストーリーを収集し始めてから7年になる。きっかけはキルト作りが日常生活で気のおけない集まりや、お気に入りの作業を一人でのびのび続けられる居場所を広げているように感じたことである。

表布、中綿、裏布の3層を縫い合わせてつくるキルトは、生活用品として各地で作られてきたが、素材やデザイン、年月やイニシャルの刺繍などを手がかりに、製作目的や環境を推測する。昨夏は、キルトに纏わる思い出として米国各地で語られる「フィードサック」の布片を入手した。飼料や小麦の輸送に使われた袋は、20世紀前半の大恐慌時に服地やキルト布として再利用された。宗教に関するきまりに基づき無地の布の切れ端を用いてきたアーミッシュも、フィードサックを使って、例外的に華やかなプリント模様入りのベッドカバーを作った。

また、キルトは世代を越えて受け継がれることも多い。ふつうの人々が紡いできた歴史を共有する目的で、キルトに纏わるストーリーを収集するキルト・ドキュメンテーション活動が展開されてきた。時とともに劣化するキルトだが、色や形とその物語を記録する。例えばノースカロライナ州の活動は、しまい込まれていたキルトを持ち込んだ人々とボランティアが、キルトと関わりともに人生を辿る機会となったのである。

シリーズの他のコラムを読む
(1)信仰と生きる終の棲家
(2)キルティング・ビー
(3)無地から作る鮮やかさ
(4)人生の物語を紡ぐ