国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

パレオアジア文化史

(3)運搬具と人類の移動  2018年4月21日刊行

野林厚志(国立民族学博物館教授)


国立民族学博物館の特別展「太陽の塔からみんぱくへ」で展示しているパシュトゥーンの皮製容器=筆者撮影

誕生の地アフリカから数十万年をへてアメリカ大陸の南端までたどり着いた大旅行から、狩猟や採集に赴き居住地へ食料を持ち帰る小旅行にいたるまで、新人は移動にあけくれてきた。身体一つの気ままな旅もあれば、存亡をかけた集団単位の移住もあっただろう。そして、何をたずさえて移動したのかは、文化伝播に直接関わる行動となる。

移動に際して、人間は実にさまざまなものを運搬具として使用してきた。人間が両手で持てるものは限られ、何をどれだけ運ぶかは運搬具の使用にゆだねられる。

台車や船のような移動装置は別として、運搬具として身近なのは植物繊維を素材とする袋や籠である。一方、動物の皮や腱を利用した運搬具を作る民族も少なくない。

動物の皮はなめさないと乾燥した時に硬化するが、適度な水分を与えてやると柔らかさが戻る性質を利用してさまざまな形への加工が可能である。幾重にも皮を重ねて形づくった容器は強度を備えつつ軽い。水や食料をたずさえて、乾燥した地域を長距離移動するのに適した道具である。

また、植物資源の安定した獲得が期待できない寒冷な環境下では、食料としてだけでなく、容器といった日常品に動物資源が用いられ、人類の拡散に一役かったに違いない。

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