旅・いろいろ地球人
日本から遠く離れて
- (3)スナップ写真 2018年10月20日刊行
-
丹羽典生(国立民族学博物館准教授)
朝枝利男は1930年代に、アメリカ人作家との周遊や米国カリフォルニア科学アカデミーによる探検隊に参加することで、太平洋をはばひろく旅している。その道行きは、ミクロネシアからポリネシア、メラネシアと、もちろん濃淡はあるものの太平洋全体をはばひろく覆うものであった。同じ地域の研究者の端くれとして、うらやましいことこの上ない。
民族学・人類学的な関心からみるとソロモン諸島の資料が質量ともに圧巻だ。儀礼、舞踏、入れ墨から装身具、さらには当時の村落の風景や家屋の様子、船の形態までいまでは失われた生活が撮影されている。
そうした調査目的から離れて、スナップ的に撮影された写真も今からみると興味深い。30年代のフィジーの離島におけるインド人の灯台守という、意外な場所で意外な仕事に就いた少数民族の姿が、彼の写真には残されているのだ。
そういえば、彼の写真のそこかしこには、日本を遠く離れて異国を棲家とする同胞の姿が残されている。日本から離れ、米国の調査隊の一員として太平洋に乗り出した写真家が、放浪先で出会ったのも非日本的日本人であったわけだ。出会いの喜び、祖国への哀愁、それとも境遇への共感。レンズ越しに彼らの姿を見ていた朝枝の胸には、どういった思いが去来していたのだろうか。
シリーズの他のコラムを読む
- (1)「朝枝利男とは誰か」
- (2)「ガラパゴス探検」
- (3)「スナップ写真」
- (4)「収容所体験と戦後」