旅・いろいろ地球人
遠くて近い村
- (4)離れた家族の存在 2018年12月22日刊行
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三島禎子(国立民族学博物館准教授)
30人分の食事=セネガルで1996年、筆者撮影
西アフリカのソニンケの人びとは大家族で生活する。複数の世代にわたる父系の直系家族と傍系家族が、最年長の家長のもとに生計と寝食をともにするのである。最小単位は一組の夫婦と子供からなり、最大では100人を超える。親戚一同が一緒に暮らしているようなものだ。
しかし、働き手世代の男性たちはほとんど村にはいない。海外で働いたり、独立して貿易を営んだりして、家族に送金する。成功するまでは帰郷できない。その後、結婚しても家族の顔を見るのは数年に1度である。
海外にいる男同士は、同郷人会というつながりのなかで生きている。そこには家族間関係も、家族内関係もそのまま平行移動した社会がある。自分以外のソニンケがいないような地域に暮らしていても、同郷人会からの集金を免れることはできない。あらゆる海外在住者は故郷の開発のために貢献しなければならないからだ。
一方、故郷に残る家族にとって、とくに子どもたちには父親の不在は寂しいものである。しかしながら、子どもたちは、父親の「不在の存在感」の重みを感じながら、大家族のなかで成長してゆく。そこには、社会と家族にすさわしい人間になるために自らを律する倫理観があるように感じる。
シリーズの他のコラムを読む
- (1)「冒険者の伝統」
- (2)「送金システム」
- (3)「砂漠と海を越えて」
- (4)「離れた家族の存在」