国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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アンデス開運グッズ

(3)屋根の上の牛  2019年3月16日刊行

八木百合子(国立民族学博物館助教)


屋根の上に置かれた牛=ペルーで2019年、筆者撮影

ペルー南部の村では、瓦屋根の頂に魔よけとして牛の置物を飾っている家がたくさんある。家に悪いものが入ってこないように牛が屋根の上から見張っているのだというが、その姿は勇猛というより、むしろユーモラスである。二つの大きな角をもつ反面、飛び出たようなまんまるの目や舌で鼻をなめるような表情はどこか愛くるしい。

素焼きの陶器でできたこの牛の置物は、産地の名をとって「プカラの牛」と呼ばれている。家の安全を見守るだけでなく、幸運や繁栄をもたらすとも信じられ、新築祝いの贈り物としても好まれている。屋根に飾るときには、必ずオスとメスをセットにする。つがいは夫婦をあらわすという。愛嬌たっぷりの表情で屋根の上にたたずむ2匹はなんとも穏やかで、円満な家庭を象徴するかのようである。

この牛は、アンデスで古くから儀礼の際に使われてきた、動物の置物に起源があるといわれる。石や木でできた小さな動物は、家畜の安全や繁殖を祈願するささげものとして用いられていた。むろん、牛は植民地化以降に西洋からやってきたものである。十字架と一緒に牛が屋根に飾られるのもキリスト教の影響である。時代の流れのなかでさまざまな要素が入り交じり、牛は屋根の上にのぼったようである。

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