旅・いろいろ地球人
中南米博物館紀行
- (4)パナマ 2019年6月1日刊行
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鈴木紀(国立民族学博物館教授)
グリプトドンの模型=パナマ市郊外のビオ博物館で2019年2月、筆者撮影
広大な中南米の中心はどこだろうか。人、動物、物の移動の要であるパナマがそれにあたるといえよう。パナマは中米と南米をつなぐ地峡地帯にあり、その狭さを利用して、20世紀初頭にパナマ運河が建設された。
運河に関する情報は、首都パナマ市旧市街にあるパナマ運河博物館が詳しい。運河建設の主な目的がアメリカ合衆国東西間の運輸力の強化にあったこと、建設作業はマラリアとの戦いで、過酷な労働に耐えかねて中国人労働者が集団自決をはかったことなどが紹介されている。建設にたずさわった唯一の日本人技師、青山士(あきら)の記録も見られる。
パナマの要衝としての重要性は、実はもっと古い時代から始まっている。約300万年前の鮮新世にパナマ地峡が形成され、南北アメリカ大陸に別れて生息していた動物が双方向に移動しはじめた。パナマ市郊外のビオ博物館では、「アメリカ大陸間大交差」といわれるこの現象を詳しく展示している。北から南に向かったサーベルタイガーや、南から北に進んだグリプトドン(巨大なアルマジロの仲間)など、今は絶滅した種の実物大の模型がずらりと並ぶ。
二つの博物館を訪ねると、パナマでは海洋が閉ざされることで南北が結ばれ、海洋をつなぐことで東西が結ばれたことに気づかされる。
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