旅・いろいろ地球人
マレーシア ふしぎばなし
- (2)猿まね 2019年12月14日刊行
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信田敏宏(国立民族学博物館教授)
精霊のいる森は危険な場所なので、してはいけないことが色々ある=1997年、アルシャド・エカル氏撮影
マレーシアの先住民オラン・アスリは、森の中にプタイという豆を採りに行く。プタイの木は高さ30メートルにもなる大木で、さやの長さは40センチくらい。中には十数個の豆が入っている。
ある日、村人のプタイ採りに同行した。バイクで1時間、丘を超え、谷を渡り、最後はバイクを降りて急斜面の道無き道を登って行ったところにその大木はあった。突然、「キーキー」という鳴き声が聞こえ、私がきょろきょろしていると、「猿だ」と近くの男性が教えてくれた。おもしろい鳴き声だったので、「キーキー」と、私もまねをしてみた。すると、男性たちが一斉に困惑したような表情になり、「そんなことしたらダメだよ。雷雨になるよ」と言いだした。
動物をからかうと嵐になり、雷雨がやって来るのだそうだ。まずいことをしてしまったと思ったが、後の祭りだった。ひとりの男性が耳に葉っぱをはさんで、何やら呪文を唱え始めた。森の精霊をなだめていたのかもしれない。
プタイの収穫が終わり、村までまたバイクを走らせていた時だった。空がにわかに暗くなり、どしゃぶりの大雨が降ってきた。頭からつま先までびしょ濡れになって、ようやく村に帰り着くと、男性たちから、「猿まねをしたせいだ」と言われた。翌日私は熱を出して寝込んでしまった。やはり森の精霊を怒らせてしまったようだ。
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