旅・いろいろ地球人
マレーシア ふしぎばなし
- (3)神の手 2019年12月21日刊行
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信田敏宏(国立民族学博物館教授)
多民族が行き交うクアラルンプール中央駅。電車は時間通りに来ないのが当たり前=2016年、筆者撮影
山あいにあるオラン・アスリの村に出かけ、疲労困憊でクアラルンプールのホテルに戻ってきた時のこと。山道を歩きすぎて、足が痛くてどうしたものかと思っていると、偶然にもホテルの入り口にフットマッサージ店があり、これ幸いと入ってみた。
担当してくれたのは少し年配の女性だった。彼女のマッサージは気持ちがよく、おかげで足の痛みもすっかり取れた。「これぞゴッドハンズ」と、心の中で思ったものだ。
翌日、電車に乗って街へ向かった。クアラルンプール中央駅で降りる、その時だった。肩にさげていたカメラのキャップが電車のドアに引っかかり、キャップが線路に落ちてしまったのだ。覗き込むと落ちているのが見えるが、どうしようもない。オロオロしながら困っていると、通りかかった女性が駅員を呼んで、キャップをとるように頼んでくれた。駅員はすぐに線路に降りてキャップを取ってくれたので、女性にお礼を言おうと振り返ると、女性は片手をあげて行ってしまった。どこかで会ったような気がしたが、誰だっただろうか。
帰国の前日、もう一度フットマッサージをしてもらおうとホテルの入り口の店に行くと、運良く「ゴッドハンズ」の女性が現れた。「このあいだは大丈夫だった?」と笑顔で話しかけて来た女性の顔をみたとたん、「ああ、カメラのキャップの!」。嬉しい再々会であった。
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