旅・いろいろ地球人
マレーシア ふしぎばなし
- (4)ねずみ 2019年12月28日刊行
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信田敏宏(国立民族学博物館教授)
ねずみが出没した台所。きちんと片付けしていなかったことも原因だったかも!=1998年、筆者撮影
森の中のオラン・アスリの村。私は空き家になって随分たつ古い家に住んでいたが、そこには先客がいた。コウモリである。
少し留守にして帰ってくると、暗い寝室の天井には、いつも2、3匹のコウモリが逆さまにぶら下がっていて、私は箒を振って追い出した。床にはコロコロしたコウモリの糞がたくさん落ちていたので、要注意だった。ヤモリも住んでいた。「ちちちっ」と鳴くのである。村人と話していると、ちょうどいいタイミングで「ちちちっ」と相槌をうつからおもしろい。
一番の思い出はねずみである。家の周りでねずみをよく見かけたので、ねずみ捕りを買ってきた。ねずみの通り道に粘着剤を塗るのである。
ある日、台所の隅から「ちゅーちゅー」というねずみの鳴き声が聞こえた。見ると、20センチ弱のねずみだった。真っ黒の粘着剤がくっついて動けなくなっているねずみを見ると、殺すことはとてもできなかった。仕方なく、粘着剤で黒くなっているねずみをつかんで、ビニール袋に入れ、草地めがけて思いっきり遠くへ投げた。「元気でな、でもここには来るな」と、心の中で叫びながら。
それから数週間後、家の中にねずみが入って来た。追い払おうとねずみを見ると、黒い粘着剤がべちゃっと体についている。「戻って来てくれたんだ」。どんな相手でも再会はうれしいものである。
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