国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

旅・いろいろ地球人

南太平洋に住む客家

(1)客家の故郷・中国広東省  2020年2月1日刊行

河合洋尚(国立民族学博物館准教授)


客家文化のシンボル・円形土楼。ただし南太平洋にはこの建築がない=中国・広東省で2017年10月、筆者撮影

中国には56の民族があるが、その90%以上を占めるのが漢族である。中国本土だけで12億人を超えるだけあって、漢族の言語や文化は実に多様だ。私たちが通常見聞きする中国語は、標準語(共通語)である。中国には、その他、上海語、広東語などのさまざまな「方言」がある。

中国の「方言」はまるで外国語である。中国語と「方言」、そして「方言」同士は、一般的に意思疎通ができない。私が2003年から約7年間暮らした東南部の広東省では、広東語、潮州語、客家語の「三大方言」がある。当時の広東省には、中国語を上手に話すことができないお年寄りが多く、大学に入るまで中国語を話したことがない若者すらいた。

客家語を話す人々は、客家と呼ばれる。特に17世紀以降、客家は、広東省から中国南部各地、さらには世界各地へと移住した。南半球の各地、例えば南太平洋の島々にも客家が暮らしている。そのうち、客家が最も集中するのが、フランスの海外領土であるタヒチとニューカレドニアである。特にタヒチ(正式名称・フランス領ポリネシア)では、現地の経済や行政に強い影響力をもつ客家が少なくない。また、タヒチの離島・ライアテアの中心街では、客家が集まって暮らしている。ここでは実質的に客家が経済的な実権を握っている。

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