国立民族学博物館(みんぱく)は、博物館をもった文化人類学・民族学の研究所です。

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アイヌ文化と植物

(3)樹皮から作る布  2020年5月16日刊行

齋藤玲子(国立民族学博物館准教授)


国立民族学博物館に展示中の伝統的なアットゥシ。衣服(右)、前掛け(左)=筆者撮影

暖かくなると、麻や木綿の服の出番だ。日本の木綿栽培が江戸時代に拡大したことはよく知られている。それ以前は麻をはじめ、コウゾ、シナノキ、フジ、クズ、イラクサなどさまざまな植物から布が作られていた。これらはすでに日常着に用いられていないが、技術が継承され、伝統工芸品として製造している地域もある。

北海道のアイヌはおもにオヒョウ(ニレ科)の樹皮繊維で糸をつくり、布に織り上げて衣服にした。アイヌ語でオヒョウ樹皮をアッと言い、その布と衣服はアットゥシと呼ばれた。

アットゥシは江戸時代の記録によく描かれ、アイヌ自身が着用したのはもちろんだが、丈夫で、水に濡れても肌に張り付かないので、本州から来た和人の漁夫や船乗りにも好まれた。札幌大の本田優子さんの研究によれば、江戸後期から明治10年代中ごろまでは北海道全体で1万反も産出されたという。しかし、その後は急速に生産が減少し、アイヌの服装も和風化していった。

アットゥシは、1960年ごろから工芸品として復興し、2013年には平取町二風谷のアットゥシとイタ(木盆)が、北海道で初めて経済産業大臣の指定する伝統的工芸品となった。それまでは素材の入手に苦労していたが、道有林・国有林のオヒョウを計画的に採取できるようになった。アッを剥ぐ季節ももうすぐだ。

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